2015年9月25日
4年に一度のラグビーW杯イングランド大会が開幕し、現地時間24日の日本代表の第2戦・スコットランド代表戦は大敗したものの、同19日に行われた南アフリカ代表との開幕戦における、日本代表の勝利は世界中で大きな衝撃を与えました。各メディアで報道されている「ハリー・ポッター」シリーズの作者、英国のJ・K・ローリング氏の「小説では書けない」発言も、「小説の中でさえ書くことがためらわれるほどに、“ありえない”出来事」という文脈で読めば、いかに日本代表が南アに勝利することが現実に起こりえないとされていたかが分かります。次回、4年後の19年のW杯は日本開催。今大会を機に、五輪やサッカーW杯のように、ラグビーW杯が注目度合いを増していくかもしれません。
また、プロ野球ではセ・リーグの優勝争いが大混戦。1~4位までが予想できない展開になっています。最後は阪神が優勝を・・・と思っていましたが、可能性は限りなくゼロになってしまいましたね・・・。
さてそんな「スポーツの秋」が熱くなっていますが、ことしは紛れもなく「2015年安保の夏・秋」となりました。第2次安倍政権は今国会において、「安全保障関連法案」を19日未明の参議院本会議で成立させました。まさに国論・世論を賛否で二分した議論は、様々な爪痕を今後の日本の政治に残したといえます。
特に顕著だったのは反対派そして賛成派のデモや集会が、東京・国会前をはじめ全国各地で多数行われたことだといえます。選挙で議員を選ぶ「議会制民主主義」の中で、「選挙のみが唯一の政治参加」と考えている人が多いとは思いますが、そうではなくてデモ・集会をはじめ、請願や署名なども立派な政治参加だという意識が確実に広まりつつあるのかもしれません。NHKの橋本淳 ・解説委員は、これまで労組や学運などの過激なイメージで市民から敬遠されがちだったデモや集会などが、SNSの発達により「社会運動とは無縁だった人が自発的に参加しやすい状況が生まれているように思います」(NHK時論公論 「大詰め安保法案~国会と民意」)と指摘しています。
同番組内で安達宜正・同解説委員は与党関係者への取材として「審議が進むにつれ、参加者が増え、最近は反対の動きはどこまで広がるのかという懸念も出始めました」と反対派のデモや集会が政治へ影響していたことを紹介しました。
しかし一連の「新たな民主主義への動き」が手放しで喜べるかというと、必ずしもそうとはいえないでしょう。
市民への世論調査では「本法案の今国会での成立に反対」の声が大きかったにもかかわらず、それらの声を聴くことなく強行採決ともとれる審議内容で法案を政府・与党が成立させたことへの批判=“反民主主義”という厳しい非難も=は当然ながら、本法案に「絶対反対」と議論を遮断してしまうような言動で反対した人々が存在したことがいえます。
▼安保法案への世論調査結果
【産経・FNN合同世論調査】「合同世論調査 主な質問と回答」
「反知性主義」という言葉が出版界で流行していますが、今回の国会運営や市民の政治運動には、法案や審議方法の賛否に関わらず、この言葉に当てはまるような現象が多々あったのではないでしょうか。反知性主義に関してはかなり広義に意味が取れますし、必ずしも悪い意味とは限らないのですが、反知性主義に批判的な人々は「論理や科学的根拠(そして自分と異なる意見)よりも、自身の感覚や信念を優先する考え方」と非難しています。
その意味で安倍政権は、科学的な世論調査の結果や、反対派のデモや集会に参加した人々の声、憲法の専門家による「憲法違反」の声などを無視したといえるので「反知性主義的」という厳しい批判を浴びています。余談ですが、本法案を支持する政治的に保守的なネットユーザーの中には「世論調査の結果や調査方法は、新聞社が都合良く操作している」などといった言説もありましたが、間違いなく反知性主義的と捉えることができます。
一方で「絶対反対」という言葉は言った時点で、賛成派の意見を遮り、議論をシャットアウトしてしまいかねません。それも俗にいう反知性主義的な言動ではないでしょうか。しかし各地のデモや集会では「戦争法案、絶対反対!」というシュプレヒコールが、報道を通じてお茶の間に伝わっていたのが事実です。
確かに「新たな民主主義への動き」が本法案で現れてきたのは歓迎すべきですが、俗にいう反知性主義的な言動で、政治的議題における賛否の主張が相容れない状況となることは避けねばなりません。
(阪田裕介)
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