【コラム】「6月24日に思う」

 50年前、ある女性が成人の日の誓いを日記に綴った。

「独りであること、未熟であること、これが私の二十歳の原点である」

 半年後の1969年6月24日未明、女性は鉄道自殺を図った。学生運動の風が吹き荒れた時代に、青春や恋愛の狭間で悩み苦しんだ末の行動だった

▼当時立命館大学文学部の3回生だった高野悦子さんは、二十歳の若さで人生に終止符を打った。彼女の死後、遺された十数冊の日記は「二十歳の原点」として刊行され、悩む若者の共感を得た▼3回生になった今春、久しぶりに読み返してみた。同い歳の女性が残した、痛々しいまでに素直な内心の吐露。

「傍観は許されない。何かを行動することだ。その何かとはなんなのだろう」(2月1日)

「独りであることを、じっくりと感じた。私は大声で叫びたかった」(4月28日)

結末に向けてページを繰る手が震える。「なぜ命を絶たなければならなかったのか」という疑問が頭をもたげる▼その答えの1つを、本学文学部教授の中川成美さんは著書「戦争を読む」の中でこう示している。「生きることの意義を見失いながら、その不信感を克服しようと、彼女は懸命に生き、そして自死という性急な結論を断行してしまった」▼現代でも生きづらさを抱えて苦しむ人がいる。直木賞作家の志茂田影樹さんはTwitterに寄せられた「死にたい」という声にこう答えた。

「生きたいからなんです。なんとしてでも生きようという願望を浅はかな死の願望が抑えにかかっています」(5月9日)

▼当事者以外が使う「寄り添う」という言葉には微かな抵抗を覚える。それでも、人の心を感じるための営みを諦めたくはない。(鶴)