10月17日、立命館学園の新たな総長候補者3名の所信表明が公示された。総長候補者3名は仲谷善雄氏、松原豊彦氏、吉田美喜夫氏の3名(50音順)。
総長選挙は、吉田美喜夫・現総長の任期が今年12月末で終了することに伴い11月4日に実施される。
以下に各候補者の略歴と、所信表明(原文)について50音順で示す。
総長選挙について詳細は特設サイト(学内関係者のみ)を参照してほしい。
仲谷善雄氏
仲谷善雄(なかたに・よしお)
情報理工学部教授/学校法人立命館理事・副総長
1981年大阪大学人間科学部人間科学科卒業。1989年神戸大学で学術博士を取得。三菱電機㈱に入社後、米・スタンフォード大学で客員研究員に就任。2004年に開学した立命館大学情報理工学部の教授に着任後、情報理工学部長などを歴任し、情報理工学部の再編を成功に導いた。2018年に学校法人立命館副総長・立命館大学副学長・学校法人立命館最高情報責任者に着任。研究分野は防災情報システム、人工知能、ヒューマンインタフェース、認知工学、思い出工学、感性工学。
《所信表明》
この度、総長選挙の候補者として推薦していただいたことを大変光栄に存じます。総長選挙は政策選択の機会ではなく、構成員の力で政策を練り上げ実現する過程において、その推進を牽引する総長に求められる広い視野、的確な判断力、リーダーシップを問うものであると考えています。そのことを念頭に、まず自己紹介し、その後に私なりのいくつかの論点を提示したいと思います。
◆「運命の2秒」~ニーズを掘り起こし、人と社会に貢献する
大学では、社会心理学を専攻する文系の学生でした。就職のときに担当教授から「研究に興味がありますか?」と聞かれ、「はい」と答えました。回答までに2秒、それは電機メーカーの研究所への就職が決まった2秒であり、その後の私の人生を決定づける運命の2秒となりました。就職後は完全に理工系の研究者でした。避難行動をモデル化するために人工知能技術を用いて、火災現場から避難する人間の心理・行動を模擬できるシステムを開発しました。今で言うマルチエージェントという枠組みです。このときの研究をベースに、神戸大学に論文を提出、博士号を取得しました。30 歳でした。その後もシステム技術を研究し、1年間米国スタンフォード大学への派遣も経験しました。
研究職を18年続け、その後、技術系コンサルタントとしての2年半の出向を経て、防災などの社会システムのシステムエンジニア(SE)を束ねるマネージャーを務めました。顧客の現場に出向くと、自社製品に顧客が「問題ないよ」と言いながらも、独自の工夫で使いやすくしている場面に遭遇します。顧客の仕事の仕方を見たり、ヒアリングを通じて、顧客自身も気が付いていない顧客のニーズを、一緒に「掘り起こす」ことに注力しました。そのような業務に取り組むなかで、研究への熱い思いが再燃するともに、若い人を育てたいという思いが高まり、2004年の情報理工学部の設立時に応募、教員となりました。
学生達とゼロから研究室を創り上げていくことは、ワクワクの連続でした。自由闊達で風通しのよい、しかしメリハリの効いた風土ができあがりました。企業での経験に基づき、ユーザの隠れたニーズをユーザと一緒に掘り起こし、それを解決するソリューションをシステムとして構想し、ユーザから評価を受けて改善する、という開発サイクルで研究を行っています。その中から、災害 時に写真や日記などの思い出の品を失くした人々の精神的立ち直りを支援する「思い出工学」、見知らぬ土地で被災して不安に陥る観光客の災害時支援な ど、世界初の独自の研究テーマを開拓し、社会的にも注目いただきました。
◆責任を持って判断し、行動する~”One Step Forward”
2017年までに約170名の学生・院生を受け入れ、送り出してきました。卒業・修了時に贈っている言葉があります。荘子の「逍遥遊」という言葉です。「自分の人生を切り拓くのは自分自身であり、様々なことに配慮しながらも、最後は自分の心に素直に従って、責任を持って判断し行動する」という意味です。このことが絶え間ない前進、”One Step Forward”につながり、やがては大きな前進を可能にします。「立命館」の名称の由来ともなっている孟子の盡心章とあわせて、私の信条と言える言葉です。
教育研究に加え、学生主事を皮切りに、副学部長・学科長・総合科学技術研 究機構長・学部長、そして副総長と、途切れなく学部・全学役職を務めてきました。情報理工学部では、大連理工大学との共同運営学部の設立の基礎を作り、英語のみで卒業できるグローバルコースを提案し、実現しました。その間、理工系のいくつかの学会の理事・副会長・会長も務めました。
先にも述べましたように、私は産業界から大学に来た人間です。その経歴からも、企業をはじめ各方面との社会的なネットワークを維持し広げることに意識的に注力してきました。社会の各方面の方々から立命館に対する率直なご意見をうかがう機会も少なくありません。それらのご意見もふまえ「立命館の良さ」を私なりにまとめると、学生の元気さと問題意識の高さ、学生第一主義の徹底、教職協働で自己改革するスピリッツと実行力、グローバル化を含めたダイバーシティへの強い意識などであると考えています。近年、改革の構想力や実行までのスピードに翳りがあるのではないかという声も聞かれますが、今一度、「立命館の良さ」を高めていきたいと思っています。私は、立命館を世界の中で語れる学園、世界の中で選ばれる学園にしたいと考えています。環境激変の今こそ、私学であることの原点に立ち返り、学園の在り方を議論し、私学だからこそできることを進めていきましょう。
厳しい環境のなか、APU や各附属校が、高い問題意識に基づいて努力と工夫を重ね、グローバル教育・科学教育・ICT 教育などに果敢に取り組み、日本をリードする存在となっていることは素晴らしいことです。ぜひとも目標点をも超えて前進して行きましょう。立命館大学では各学部が改革を重ねています。科研費の採択件数や額で私大上位(早慶立命)に位置していることは誇ってよいことです。各学部が際立った独自性を打ち出して発展していこうとする熱意を尊重し、各キャンパスの整備課題も含め、支援したいと思います。
◆立命館の未来創造への決意と覚悟
では、近い将来の学園はどうあるべきでしょうか。人工知能は、2045 年頃に人間の能力を越えると予想されています。これをシンギュラリティと呼びますが、そのような時代においても、未来の創造、すなわち「挑戦」は人間に委ねられるのです。挑戦は人間にしかできません。しかし、挑戦には時間が必要です。会議の数や時間を半分にすることを目標において、そのために様々な仕組みを検討し、教職員の皆さんが挑戦する時間を作り出したいと思います。
また、グローバル化が急激に進展するなか、企業や社会は、より高度な人財、つまり博士人財をグローバルに求めています。附属校とファストトラックなど高度な接続の工夫により、高度人財をじっくりと育てたいと思っています。
R2030 ビジョンに魂を入れるのは、この 2 年間です。私は、学園の様々な皆さんと夢を語り合って計画を策定する決意、そして汗をかいて計画を実行・完遂していく覚悟があります。世界から選ばれる学園になるため、総長は自ら、社会に、そして世界に積極的に出て、露出度を高め、学園の存在感をアピールすべきだと考えています。候補者の中で比較的若いことは、長所でもあれば課題でもあるでしょう。それを十分承知した上で、活発に議論を行い、スピーディかつタイムリーに決断し、大胆に実行します。
私は、立命館に来て、大学人として立命館に育てていただきました。学園を応援してくださる多くの皆さんの期待に応えられるよう、在校生や卒業生がいつまでも母校を誇れるよう、学園創造に邁進することをお誓いし、所信表明とさせていただきます。One step forward!
松原豊彦氏
松原豊彦(まつばら・とよひこ)
食マネジメント学部教授/学校法人立命館理事・副総長
1978年大阪市立大学経済学部卒業。1983京都大学大学院経済学研究科・博士課程後期課程・単位取得満期退学。1997年京都大学で博士号(経済学)を取得。宮城学院女子大学学芸学部で教鞭をとり、1989年に立命館大学経済学部助教授に着任。経済学部長などを歴任し、現在は今年開学した食マネジメント学部の教授に就任している。2015年に学校法人立命館副総長・立命館大学副学長に着任した。研究分野は農業経済学、アグリビジネス、農業の第6次産業化。
《所信表明》
【基本的な考え方】
最初に、今次の総長選挙の候補者としてのぞむにあたって、私の基本的な考え方を申し述べたいと思います。
総長選挙は、これまでの4年間の教学をはじめとする学園政策の到達点を検証し、次の4年間にむけての課題を議論する大切な機会です。現在、学園はR2030中期計画の具体化に向け、吉田総長を先頭に政策の具体化に取り組んでいます。また、RUに関しては全学協議会の開催が次年度も予定されており、学友会等から提起された切実な課題に継続して取り組み、成果を確実に生み出してゆく責務が総長はじめ大学に課せられています。そうした中、今次、吉田総長は2期目の総長として推薦されています。吉田総長は、学園の民主主義的な運営を基本に、絶妙なバランス感覚とねばり強い精神で意思決定と政策の合意形成に取り組んでこられました。私は、上記に示した重要課題を含めた山積する諸課題を、学園の一体性と総合力によって成し遂げていくためには、こうした統率力に優れ、また学園全体からの信頼も厚い吉田現総長のもとで、学園が一致団結して取り組んで行くことこそ、最善の道であると信じています。
以下では、副総長として取り組んできたものの中でも、残された課題として感じているもの、また今後、学園にとって重要と思われる課題等について記し、私の所信表明と致したいと思います。
【この4年間の成果と到達点】
この間微力ですが、副総長(学生・入試・一貫教育担当)として現総長を支えてまいりました。紙数制約のため教学改革と国際化、キャンパス整備、全学協議会と学費、一貫教育に絞り簡単に本学園の成果と到達点を確認したいと思います。
①教学改革、国際化教育の推進.RU と APU でのスーパーグローバル大学創生事業(SGU)の推進をはじめ、RU では国際関係学部のアメリカン大学との共同学士課程国際連携学科開設、グローバル教養学部の設置判断と開設準備等の国際化課題に取り組みました。食マネジメント学部、教職研究科、人間科学研究科の開設等も進めました。既存学部・研究科の改革も継続し、入試の総志願者は 5 年連続で増加しています。
②教学を支えるキャンパスの整備.R2020 後半期の課題である RU 各キャンパスでの施設整備が進みました。平井嘉一郎記念図書館の開設、学生会館の耐震化・改修、旧図書館跡地の広場化、そして存心館・興学館の大規模改修(以上、衣笠)、プールを含むBKCスポーツ健康コモンズの開設等の事業が相次いで実施されました。また RU 各キャンパスのラーニング・コモンズは、グループ学習やアクティブ・ラーニングの空間を広げました。さらに国際交流と言語学習を目的とするBBP の開設は、国際寮拡充とともに、国際化推進に重要な役割を果たしています。
③全学協議会と学費政策.RU では 2016 年、2018 年と 2 回の全学協議会を実施しました。2016 年には学部生学費の 2 年間据え置きを判断するとともに、初年次教育の強化、SSP の開始等、後半期重点施策の策定・実施で合意しました。大学院修士学費の減額改定に踏み切り、各研究科の取り組みもあり、2018 年度の修士課程入学者は前年度比で 122.6%に増えました。2018 年に向けて「総長アジェンダ」が提起され、「協創施策―ラーニング・イノベーション」へと結実しました。学部生学費の 1 年据え置き、大学院修士学費の減額継続と 2019 年の全学協議会開催を判断しました。総長がリーダーシップを発揮し、粘り強く熟議を貫いたことで、2018 年全学協議会の合意に到達できました。
④附属校・一貫教育と高大連携.附属校と一貫教育のガバナンスのあり方が大きな議論になり、検討委員会の答申を受けて、附属校の運営、重大事案における危機管理対応、一貫教育部のあり方等について方針を整理しました。立命館小学校における学校運営上の課題について迅速な問題解決に取り組み、教育環境の改善に努めました。各附属校の教育改革の取り組みを支えるとともに、高大連携について検討を進めました。
【次の4年間の課題】
①協創施策―ラーニング・イノベーション.教育の質の向上を目標に立命館らしい教学を協働して創造していくこと、ここに RU の協創施策(ラーニング・イノベーション)のカギがあります。初年次教育とピアラーニングの再構築、1 度は海外経験をする仕組み、地域連携や社会連携など多様なフィールドで学ぶこと等を通して、「卒業時満足度ナンバーワンの大学」(総長アジェンダ)にすることが重要な課題です。
②教学・研究を支えるキャンパス整備.開設から24年を経たBKCでは、理系研究施設の抜本的刷新が大きな課題です。今日的な教学・研究の水準にふさわしく、また安全面の課題をクリアする自然科学系の第2期計画を策定し、実行することは R2030 前半期の重要課題の一つです。動物実験・飼育施設の改修・増築は、すみやかに解決しなければなりません。食環境の改善と健康なキャンパス作り、受動喫煙防止の更なる推進に努め、学生・院生の意見を反映し、キャンパス整備、施設改修を進めていく必要があります。
③学生生活・課外自主活動の支援.この間、社会的に大学スポーツとガバナンスのあり方が大きな議論になっています。立命館スポーツ宣言の精神にのっとり、立命館版のスポーツ改革をさらに進めます。そこでは、正課と課外を両立する仕組みづくり、安全を重視してのスポーツ施設の再点検と改善、課外活動での学園内連携促進等が課題になります。
④2019全学協議会に向けての学費・財政政策検討.開催予定の 2019 年全学協議会では、教育・研究を支える学費・財政政策を検討し、学費案を提起できるようにすることが必要です。
⑤研究・大学院.研究高度化は大学院教育の拡充と一体不可分の関係にあります。産業界や地域・自治体との連携を一段と強化すること、卓越大学院の立ち上げ、ダイバーシティ&インクルージョンの第2段階に向けた政策、研究高度化を支えるインフラ・施設整備等が課題となります。
⑥附属校・一貫教育.各校での教学改革と将来構想の検討が重要課題です。附属校教諭の働き方の見直しは現場の議論をふまえて、クラブ活動の改革も含めて「これなら実行できる」と確信がもてるものにしなければなりません。小学校から、中学・高校、大学、そして大学院まで視野に入れた連携・協働をさらに進めることで私立総合学園の強みをさらに高めていくことが重要です。
⑦R2030 基本計画(チャレンジ・デザイン)の策定.以上の諸課題についての議論のエッセンスを、RU、APU、各附属校の基本計画としてまとめていきます。そこでは各大学、附属校の改革とともに、学園内の連携や社会との連携協働をさらに強化し、学園の総合力を内外で発揮していきます。
【むすび】
今回の総長選挙では、4年間の成果と到達点をふまえて、次の4年間の課題について学園をあげて議論を深めることが重要です。ここで述べた諸課題に取り組み、回復した学園の一体性と総合力をさらに高めるためには、現職総長の再任が本学園にとって最善の判断であると確信し、全力をあげて現総長を支えることを表明して所信といたします。
吉田美喜夫氏
吉田美喜夫(よしだ・みきお)
法学部教授/学校法人立命館総長
1972年立命館大学法学部卒業。1977年立命館大学大学院法学研究科・博士課程後期課程・単位取得退学。2008年立命館大学で博士号(法学)を取得。本学大学院卒業後、法学部非常勤講師として教鞭をとり、1990年に法学部教授となる。本学大学院法務研究科教授、法学部長、図書館長、学校法人立命館評議員(副議長)などを歴任し、2015年に学校法人立命館総長・立命館大学学長に着任。学外でも大学基準協会副会長、私学連盟常務理事、大学コンソーシアム京都理事長などを務める。研究分野は労働法。
《所信表明》
私は、学部学生として入学以来、50年間立命館で学び仕事をしてきました。それだけに、立命館を良くしたいという思いを強く持っています。前回、総長に選出頂いて以降の4年間、この想いを形にすべく、学園の発展に全力を注いできました。「立命館」がその名の通り、児童・生徒・学生・院生、そして教職員の一人一人にとって「自らの運命を切り拓く場所」となるよう、なお一層尽力したいと思います。この決意のもとに総長候補者として所信を表明します。
学園の知とエネルギーの結集 私はこの4年間、「熟議」を最も重視しながら学園の多くの課題に向き合い、皆さんとの真摯で熱心な、時に厳しい議論を通じて政策上の決断を行い、事業を推進して来ました。私がこうした役割を果たすことができたのは、学園執行部および教育・研究の現場を担う教職員の皆さんの奮闘と支え、そして学び舎に集う皆さんのご理解があってのことです。
立命館は知とエネルギーの宝庫です。この知とエネルギーをいかに結集し、正しい判断に導くかが総長の最も大事な責務だと信じています。しばしば迅速な意思決定の必要性が強調されますが、予測が困難で絶えず変化する環境に置かれているからこそ、性急な判断で方向を誤ることは許されません。一時的な意見の対立を避けることなく、粘り強く議論し、確固とした合意形成を図る姿勢を 4年間堅持してきましたし、これからも守ります。これにより、4年間で回復した学園全体の結束を維持し、さらに高めることができると考えます。
計画の継続と新たな飛躍の実現 次期総長の任期は 2019年から始まる4年間です。R2020の最後の2年間は、その計画をまずやり遂げなければなりません。
そして、2020 年の秋までには、策定された R2030 の学園ビジョンに基づき、具体的な政策を盛り込んだアクションプランである「チャレンジデザイン」をまとめることが課題です。これは 2030 年までの中期計画の骨格を規定するものです。したがって次期総長の任期の 4 年間は、継続と飛躍の両方を「架橋」する期間となります。R2030 の学園ビジョンを練り上げる議論には、未来を担う若い皆さんも多数参加されました。私は、そこで提起された「挑戦をもっと自由に」の精神に立って、「チャレンジデザイン」の策定に取り組みます。
2019 年度と 2021 年度(R2030 初年)は、RU では学費・財政を議論する全学協議会の開催が見込まれています。そして APU では APU2030 ビジョンを具体化し、附属校では学園ビジョンを基礎に各校の個性を活かした将来構想を固め実現に着手する時期に当たります。私は、学園の教学を統括する総長として、こうした改革に向けて切れ目のない議論の具体化を率先して進めます。
ディーセントな人間らしい働きがいのある学園の創造 4年前、私は「ディーセント」な学園の創造という課題を提起しました。「ディーセント」は、一般には「人間らしい、働きがいのある」仕事や職場を形容して使われます。その意味を念頭に置きつつ、「立命館憲章」に謳われている平和や民主主義、健康や文化、スポーツを重視し、立命館を社会から尊敬される学園にしたいという方向を表現したものです。この提起には、学生や生徒、児童の元気はまず教職員の元気から、という意味が込められており、この信念は今も変わりません。
近年、わが国においては、働き方をめぐる諸問題が重要性を増してきており、労働時間のあり方や、雇用形態を問わず等しい労働に対して等しい処遇をするという課題が法制度の面からも提起されています。私たちの学園においても、これらの課題についての議論を着実に進めていくことが必要です。また、男女共同参画やワーク・ライフ・バランスに関わる施策では、女性教員比率の上昇や、RU の学内保育所の設置などを具体化させることができましたが、引き続き多様な人々を包容するダイバーシティとインクルージョンの課題に積極的に取り組みながら、「ディーセント」な学園づくりを進めていきます。
さらなる連携強化で総合学園のパワーを発揮 立命館は2大学、4中学・高校、1小学校を擁する総合学園です。この間、皆さんの多大な尽力により、各附属校、APU、RU は大きな発展をとげることができました。立命館の強みは、学園を構成する各校の個性を活かしつつ、その多様性を伴った一貫教育を展開できるところにあります。今後もこの強みを最大限に発揮していかねばなりません。そのために RU と APU は、互いの個性と独自性を尊重しつつ連携を図り、刺激を与え合うことによって、グローバル化の進む時代において、立命館らしい教学の創造を図るべきです。附属校は、学園の支援の中で、それぞれの存在感を高める施策に取り組み、意欲的な児童・生徒を大学・大学院へと迎え入れるよう、教学内容での連携・接続や人的交流の強化を図るべきです。
こうした連携の必要性は、学園を構成する学校間にとどまりません。父母教育後援会 や校友会を通じて築いてきた学園と父母・校友との絆は、学園の宝であり、その意義は今後ますます高まっていきます。私はこうした観点から、父母や校友の皆さんが最も期待されている元気あふれる学園づくりに努めます。さらに、国や民族、文化を越えて多様な機関や人々との協働を進めます。
「ラーニング・イノベーション」の推進 昨年秋に発表した「総長アジェンダ」を起点として、「学びの広がり・つながり・変革を協創するラーニング・イノベーション」へと発展してきた方針を前進させることを教学の柱にします。RU・APU では、留学生や社会人などの増加によって、ますます多様な人々が共に学びあう空間となるいまこそ、個を大切にする教学の視点がこれまで以上に不可欠です。立命館には、変化の激しい時代の担い手として、しなやかに適応する成長習慣をもって学び続け、主体的に環境に適応しつつ新たな可能性を切り拓くことができる人々を育成する責任があります。そのためには、知識伝達から、学生自身による主体的な知識の確認と活用への変革が必要です。キャンパスや学校単位での個性ある教学創造と、正課外活動や地域・海外体験などを通じて、学びのフィ―ルドを拡大し、そこで学ぶ人々の成長実感につながるように学びの質を高め、これまで以上に選ばれる学園を目指していきます。
私は、「正義と倫理をもった地球市民として活躍できる人間の育成に努める」という「立命館憲章」の理念を改めて確認し、学園の最重要テーマの一つである SGU 事業をはじめとしたグローバル教学の推進に引き続き取り組みます。
研究の高度化と高度人材の養成 第4次産業革命の到来とも言われる情報化の進展や科学技術の重要性がいっそう高まる中、私学として大規模な理系学部・研究科を有する RU では、その改革は学園全体にとってもきわめて重要な課題ととらえています。特に施設問題の解決を含め、新時代を切り拓く理系の教育・研究の発展を図ることは、将来にとって極めて重要な課題です。立命館らしい研究力を発揮するには、R-GIROの成果などを継承し、学部の枠を越えた研究力を結集させる必要があります。こうした研究の高度化のもとに、未来価値を創造してゆく人材の養成も重視したいと考えます。もちろん、その実現に向けては、企業や自治体とのコンソーシアム、大学院強化、基礎研究を含む研究の高度化を図り、個の独創と群の創造を推進します。また、理系教学以外の分野でも、新しい教学分野への挑戦を時代の動向に機敏に対応して構想していく必要があります。そのために、財政措置、キャンパス施設整備、研究時間の創出に資する制度や体制の整備を早急に図っていきます。
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