【本学・村上剛准教授】「若者はなぜ選挙に行かないのか」

現在はカナダで研究している村上氏。電話取材に応じてくれた(写真は本人提供)
現在はカナダで研究している村上氏。電話取材に応じてくれた(写真は本人提供)

 2017年の衆院選では、20代の投票率が全世代最低の33.85%(全体投票率は53.68%)を記録するなど、若者の投票率は低迷。投票率の低さから「若者の政治的無関心」が嘆かれる中で、「なぜ若者は選挙に行かないのか」を本学法学部准教授の村上剛氏に聞く。(聞き手=鶴)

 若者には投票に行くためのリソースが揃っていません。そのリソースとは政治的知識や興味などです。簡単に言うと、政治的知識が無いと「今回の選挙で何が変わるのか」が分からないですよね。また政治と若者の利害が関係しにくいことも理由に挙げられます。学生のうちは納税額もそんなに高額にはなりません。でも社会に出て自動車などを買うと、多額の税金がかかるようになり、各政党の税金に対する主張に関心を抱くようになります。

 帰属集団によって、投票先が固定されることもあります。例えば農業関係の仕事に就くと、農業の将来について考えるでしょう。そうなると「農業自由化」や「農業の振興」といった政策の中で、自ずと自分の支持すべき政治家が明らかになります。ないしは利害を度外視しても、社会生活の中で上司から「この人に投票して」と頼まれて投票することもあるかもしれません。またリソースは投票環境によって制約される場合もあります。投票には、場所や投票時間などといった制約がかかってきます。とりわけ大学生の場合、住民票を移していないという学生も多いですよね。本籍地から投票用紙を取り寄せて、不在者投票をするにも面倒ですから、そういった学生はあまり投票に行かないでしょう。

ただ投票率の世代別推移をふり返ると、どの時代も若者の投票率は低いです。つまり若者の投票率の低さは「今」の若者に限った話ではないです。現在の50代も、自身が20代の時はあまり投票に行っていません。「今の若い人たちは選挙に行かない」と嘆かなくても、年を重ねれば、ある程度は投票に行くようになると予測できます。

 

 一方で若者の投票率の低さが政治的無関心を表しているとは限りません。もちろん関心がないから投票に行かない人が多いのは間違いないです。ただ実際は関心があっても、あえて投票に行かない人や政治を変えることを諦めている人もいます。

 若者だけでなく、全世代的に投票率は低下しています。ただこれは日本独自の現象ではなく、政治的に安定している主要民主国ではほとんどの国で投票率低下の傾向があります。この理由を説明することは難しいですが、世相が変わったせいではないかと言われています。生きている間に民主主義国家へと変革して、参政権を勝ち取った経験をした人は、選挙権のありがたみを身にしみて知っています。しかし、そういう人は今の社会ではほとんどいません。投票によく行った層がいなくなり、あまり投票に行かない新しい層が入ってくる。そうなると投票率が下がりますよね。

「若者が投票しやすい環境の整備を」

 個人に政治的関心を抱かせることは非常に難しくて、一朝一夕にはできません。劇的に何かを変えて解決する問題でもありません。逆に「なぜ投票に行くのか」という理由も多元的で、ある研究者によると40個もあるといいます。年齢以外にも、性別の違いや収入、帰属、遺伝子まで関係しているのではないかという研究まであります。ただ1つ確実に投票率を上げる方法は、義務投票制度の導入です。オーストラリアはこの制度のおかげで投票率が90%です。「政治的関心のない人を無理やり投票所に行かせることは良いことなのか」という別の問題も生じますが、それ以外で「これをすれば確実に投票率が上がる」という政策はありません。

 若者の政治参加に関する議論は終着駅が決まっていて、「若者は政治について関心を持って、投票に行こう」ということになります。私はこの終着駅がどうも好きではありません。若者の投票率を上げようと思ったら、制度を含め若者が投票しやすいような投票環境を整えるべきではないでしょうか。例えばスマホでインターネット投票ができるようになると、投票率は絶対に上がると思います。もちろん技術や人件費の問題はありますが、それを差し引いても若い人が投票しやすいようにする努力が足りていません。

 

 投票環境を整備するという意味では、情報提供なども大切ではないでしょうか。最低限として「今回の選挙が大学生にどういう影響を与えるのか」を伝える必要があります。そういう意味では、若者向けのアジェンダが設定されることは、あまりありません。政治家が若者に向けた政策を打ち出せば、関心は集まると思いますよ。

 政策を噛み砕いて楽しく伝えるプラットフォームも必要ではないでしょうか。例えば韓国では、2017年の大統領選挙の時に各陣営が選挙戦でダンスを踊りました。楽しみながら政治に触れるプラットフォームを作ると、選挙に行きやすくなります。

 この話をすると「政治に関心が無い人を投票に行かせて良いのか?動員の上手な政党が票を獲得するのではないか?」という批判が出てきます。でも論理的に政策を考えて投票に行く人は少なく、多くの人は感情的な部分が先に立ちます。例えば「なぜかは説明できないけれど、今の政治は腹立たしい」といった理由で投票に行く人もいます。最近の政治学では、個人の感情が政治行動に及ぼす影響が盛んに研究されています。たしかに投票のクオリティは高くはないかもしれませんが、それを契機に政治的関心を持つのなら良いかもしれません。それこそ政治的無関心が蔓延する現状よりは良いのではないでしょうか。

コメントをお書きください

コメント: 1
  • #1

    ことこ (金曜日, 12 7月 2019 11:32)

    私も先生のご意見に賛成致します。ネット投票いいですね。若い人達には働きだした自分を想像しながら自分の家計簿は政治によってどう変わるのかを考えて頂きたいです